良い脚本からでも悪い映画はできる。しかし、悪い脚本から良い映画はできない。
名匠・黒澤明監督の言葉です。
「自信作の脚本なのに、なかなか読んでもらえない……」
「企画書を出しても、プロデューサーの反応がいまいち……」
もし、あなたが映像制作でこんな壁にぶつかっているなら、それは作品の中身以前に「ログライン(Logline)」の弱さが原因かもしれません。
今の映像業界は、まさに「時間の奪い合い」です。
NetflixやYouTube、映画祭の選考委員の手元には、毎日数え切れないほどの企画が届きます。彼らが一つの企画を見る時間は、ほんの数秒から数分しかありません。
この一瞬で「おっ、この物語は面白そうだ!」と思わせるための魔法のテキスト、それがログラインです。
ログラインは単なる要約ではありません。
あなたのプロジェクトのDNAであり、チーム全員が迷わないための羅針盤なんです。
この記事では、ハリウッドから現代のネット動画まで通じるログラインの仕組みを解剖し、プロデューサーを「おっ!」と唸らせる具体的な作り方を、わかりやすく解説していきますね。
1. ログラインの正体:キャッチコピーやあらすじとは違います!
ログラインを専門的に言うと、主人公、敵対者、対立構造、そして賭け金(Stakes)を含み、聞いた人の頭の中に映像と感情をパッと浮かばせるための戦略的な文章のことです。
よく「キャッチコピー(タグライン)」や「あらすじ(シノプシス)」と混同されがちですが、実は役割が全然違うんです。
表で比べてみましょう。
| 項目 | ログライン (Logline) | タグライン (Tagline) | シノプシス (Synopsis) |
| 目的 | 企画を売るため、制作の指針 | 観客への宣伝、興味付け | 物語を完全に理解してもらう |
| ターゲット | プロデューサー、出資者 | 一般のお客さん | 監督、キャスト |
| 構成要素 | 構造(誰が、何をして、どうなる) | 雰囲気、テーマ、皮肉 | 起承転結(結末含む) |
| 文体 | 具体的で、説明的 | 抽象的で、感情的 | 小説っぽく、詳細に |
| 例(エイリアン) | 宇宙船という密室で、乗組員が正体不明の生物に襲われる中、唯一生き残った女性航海士が脱出を試みる。 | 宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。 | (物語の全貌を書いた長い文書) |
ログラインは業界向けのツールです。
かっこいい煽り文句ではなく、物語の骨組み(どんな構造か)をハッキリ伝えるものだと思ってください。
2. なぜ映像業界でログラインが絶対視されるの?
① 「30秒の壁」を突破するエレベーターピッチ
忙しいプロデューサーとエレベーターに乗り合わせた数十秒で、企画を売り込む「エレベーターピッチ」。ここで「ある男の愛の物語で〜」なんてフワッとした話をしたら失敗してしまいます。
ログラインは、相手の頭の中に「何それ、気になる!」という好奇心のギャップを作り出し、「もっと知りたい(脚本を読ませて)」と思わせるための最強の武器なんです。
② 脚本の穴(Plot Hole)を見つける
業界ではよく「一言で言えない物語は、脚本の中で迷走している」と言われます。
ログラインを書こうとすると、目的が曖昧だったり、敵が弱かったりすることに気づけます。つまり、ログラインは脚本を書く前の「健康診断」のような役割を果たしてくれるんです。
③ 制作チームの共通言語(羅針盤)
撮影現場や編集室で「このシーン、どう表現しよう?」と迷った時、全員が立ち返るべき指針になります。YouTube動画なら、「このタイトルとサムネは企画の核(ログライン)と合ってるかな?」というチェック基準にもなりますよ。
3. 「売れる」ログラインの解剖学:4つの必須要素
成功するログラインには、必ず入っている「黄金の4要素」があります。これが入っていないと、物語としての推進力が弱くなってしまいます。
① 欠点を持つ主人公(The Protagonist & Flaw)
単なる名前ではなく、【形容詞 + 職業/役割】で表現しましょう。
ポイントは、その形容詞が物語の課題に対して「欠点(苦手なこと)」になっていることです。
- × 惜しい例: ある刑事が……
- ○ 良い例:高所恐怖症の刑事が……(『ダイ・ハード』)
- ※高い場所で戦う物語に、あえて「高所恐怖症」の人を置くことでドラマが生まれますよね!
② きっかけとなる事件(Inciting Incident)
日常を壊し、物語を動かすスイッチです。「〜が起きたとき」「〜を発見した後」として提示され、物語の「いつ(When)」を示します。
- 例:サメの死体が発見された時(ジョーズ)、妹がゲームに参加してしまった時(ハンガー・ゲーム)。
③ 具体的で強烈な壁(Conflict/Antagonist)
主人公の邪魔をする敵、または状況です。フワッとした「悪」ではなく、映像としてイメージできる具体的な脅威が必要です。
- 例:不死身のサイボーグ、巨大な嵐、24時間のタイムリミット。
④ 賭け金(The Stakes)
「もし失敗したらどうなるの?」 というリスクです。これがないと、ハラハラドキドキが生まれません。
- 個人的な賭け金: 死、狂気、愛する人を失う。
- 世界的な賭け金: 人類の滅亡、戦争の勃発。
- 例:コンクールで優勝できなければ、借金のために家を売らなきゃいけない(生活の危機!)。
4. 実践編:キラー・ログラインの方程式
理論を形にするためのテンプレートを用意しました。この穴埋め問題に答えるだけで、ログラインができちゃいます!
{① きっかけとなる事件}が起きた時、
{② 欠点を持つ主人公}は、
{③ 具体的な目的}を達成するために
{④ 圧倒的な敵}と戦わなければならない。
さもなければ{⑤ 賭け金(最悪の事態)}を失うことになる。
ケーススタディ:『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
これを『バック・トゥ・ザ・フューチャー』当てはめるとこうなります。
「変わり者の科学者と親友の高校生(主人公)が、
誤って30年前にタイムスリップしてしまう(事件)。
彼は元の時代に戻るために奔走するが(目的)、
若き日の自分の母親に恋をされてしまい(障害/皮肉)、
自分の存在が消える危機(賭け金)の中で、両親を結びつけなければならない。」
5. ログライン作成のステップ:書くのではなく「発見」しよう
いきなり完璧な一行を書こうとしなくて大丈夫です。プロもやっている手順を真似してみましょう。
- ブレインダンプ(要素の書き出し):
文章にせず、「誰が」「目的」「障害」「リスク」を箇条書きにします。まずは素材出しです。 - ドラフト作成(結合):
要素を接続詞で繋いでみます。この段階では長くてもOK! - ダイエット(削ぎ落とし):
不要な形容詞(「とても」「運命の」など)や副詞を削除し、強い動詞(「戦う」「脱出する」「暴く」など)に置き換えていきます。 - 「皮肉(アイロニー)」の注入:
「放火魔の消防士」「嘘をつけない弁護士」のように、設定に矛盾やギャップがあるか確認します。ここが面白さのスパイスです。 - 20通り書いてみる:
視点を変えたり、強調する場所を変えたりして、少なくとも20パターン書いてみましょう。その中に必ず「これだ!」という輝く一行が見つかります。
6. 初心者がハマる「5つの落とし穴」
プロの下読み係(リーダー)が「これはダメだな」と判断してしまう主な理由です。気をつけましょう!
- 固有名詞を使っちゃう: 「田中太郎は……」と書かれても、誰も彼を知りません。「引退間際の刑事」のように属性で書きましょう。
- 質問で終わらせる: 「果たして彼は生き残れるのか?」は予告編の煽り文句です。ログラインでは、どんな激しい対立があるのかを言い切りましょう。
- テーマを語っちゃう: 「これは愛と平和の物語です」という説明は不要です。具体的な行動(プロット)で語ってください。
- 脇道に逸れる: 「一方、彼の妻は…」というサブストーリーはノイズになります。メインの物語に集中しましょう。
- 設定説明が長い: 物語が始まる前の説明(バックストーリー)は最小限に。「今、何が起きているか」に集中してください。
結論:ログラインは物語への招待状
ログラインが書けないということは、その物語がまだ「物語」になっていない証拠かもしれません。
ログラインを書こうとウンウン唸る過程で、物語の弱点が見えてきます。それこそが、ログラインを作る最大のメリットなんです。優れたログラインが書ければ、優れた脚本が書ける確率はグンと上がりますよ。
あなたの頭の中にあるカオスなイメージを、他人に伝わる「形」にする。まずはこの数行をピカピカに磨き上げることから、あなたの映像制作を始めてみてくださいね!

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